「デジタル・ガバメント戦略」を推進し、 職員の負荷軽減と住民サービス向上を目指
少子高齢化で減少する労働力を補う意味でも、また新型コロナウィルスや自然災害のような、突発的で予測しきれない事態に上手く対処していくためにも、自治体にはスマート化に取り組むことが求められています。
本稿ではコロナ禍をきっかけに、デジタル化に向けて大きな一歩を踏み出した、大阪府豊中市の事例を紹介します。
導入業務
- 母子保健課などにおける紙の帳票のデータ化とシステム入力
- 固定資産税課での名寄帳印刷業務
- 会計年度任用職員の登録業務など、時期的にピークのある業務
ポイント
- 40業務で約5,000時間/年の作業時間削減に成功
- 職員の労働力を住民サービスへ向けられるように
- 自動化には専門企業の力を借り、職員の負担を軽減
危機を変革の契機に変えた、経営視点からの柔軟な市政
豊中市では2018年、「未来につなぐ創る改革」を理念に、教育文化、まちづくり、健康などの5つを柱とした基本政策を策定、翌年にはその具体的な実行指針として「経営戦略方針」を打ち出しました。基本政策を着実かつスピーディに推し進めるためには、行政が経営的な視点を持ち、市民のニーズや社会的情勢などの変化に柔軟に対応していくことが必要との考えからでした。
変化はすぐにやってきました。人々の生活様式や経済状況を大きく変えたのは、新型コロナウィルスの感染拡大です。これに対する豊中市の対応は素早いものでした。2020年8月に「とよなかデジタル・ガバメント宣言」を発表、2020年9月には経営戦略方針を改定、あわせて「とよなかデジタル・ガバメント戦略」を策定しました。この中で長内 繁樹市長は、「このたびの危機を変革の契機ととらえ(中略)デジタル技術によって、様々な主体がつながり合い、市民のみなさんの暮らしや地域経済を支え、まちの発展につなげる取組みを推進してまいります」と述べています。
さらに同年10月には、総務部内にあった情報政策課に代わりデジタル戦略課を新設、デジタル化の推進強化が図られました。同課の取組みの一つとして、RPAソフトウェア「WinActor」やAI-OCRソリューション「DX Suite」を活用した業務の自動化・効率化を推進しています。
運用しながらのシナリオ改修で、自動化の精度を向上
市役所内の業務にデジタル技術を活用することは、2019年に策定された「経営戦略方針」で決定されており、当初は都市経営部 創造改革課の主導によってRPAおよびAI-OCRの試行導入プロジェクトが進められていました。2019年6月から翌年3月にかけて行われたプロジェクトでは、申請書など紙の帳票に基づく入力や帳票出力といった8つの定型業務を、SIerに作成してもらった22本のシナリオで自動化、結果として作業時間を22~100%削減できることが確認されました。
「ただ、ここで作成されたシナリオが実運用で使えたかというと、そうではありませんでした」と、当時プロジェクトにも参加していたデジタル戦略課 主事の坂西 啓太郎氏は言います。テスト用のデータをWinActorやDX Suiteに渡すと、人が行うよりも短時間に作業が完了することは分かったものの、データの内容によって処理工程が細かく分岐する実運用ではうまく機能しなかったのです。
実際の業務に使えるシナリオを作成するにはかなりの労力が必要になると考えた創造改革課では、本格導入にあたって改めて業者選定を行い、2020年6月、きめ細かいシナリオ改修にまで対応できるパートナーとしてアクシオを選びました。同年10月にRPA推進の管轄部署がデジタル戦略課へと移った後も、現場担当者からのヒアリング、シナリオ作成、テスト、改修対応などには、すべて同社が関わっています。
「自動化を行っている部門からは様々な要望が出てくるので、それらに迅速に対応するには、専門の知識・技術を持ったパートナーがいてくれた方が心強いですね」(坂西氏)
例えば長寿安心課の「介護保険要介護・要支援認定申請書のデータ入力作業」、母子健康課の「妊婦健康診査受診券のデータ入力作業」などは、先述の通り、申請内容などによって処理方法が多岐にわたるため、すべてのパターンを想定して、予めシナリオを用意しておくことは困難です。そこで実際にデータをWinActorやDX Suiteで処理してみて「こういうケースが出てきた。この場合はこう対処するようにシナリオを直したい」「この文字が別の文字に誤認識されがちだから、正しく変換されるようにしたい」など、現場から上がってきた改修・修正の要望をアクシオの担当者に伝え、その都度、対応するようにしています。
母子保健課 妊婦健康診査受診券のデータ入力作業の時短効果(試行導入時)
またアクシオからは、DX Suiteの読み取り精度を上げるには帳票の書式をどう変えるべきか、WinActorでの処理効率を高めるには、帳票にどういう情報を追加すべきかなどのアドバイスも受けているといいます。
「アクシオと一緒に仕事をすることで、我々の中にもノウハウを蓄積していくことができますから、対応力の向上も図られています」(坂西氏)
職員の負担軽減が、手厚い住民サービスにつながる
本格導入後の効果について、坂西氏は次のように説明します。
「現状、年換算で約5,000時間分の作業削減につながっています。『会計年度職員の採用データ入力作業』や学校の『給食費の口座振替データ入力』など、季節によってピークがある業務でも大きな負担軽減ができるようになりました。
業務を自動化した部門からは『単純作業から他の仕事に集中できるようになって助かっている』という喜びの声だけでなく、『こういう業務にも使えるのではないか』と、RPAの使い所の提案も自発的に出てくるようになっています。また自分たちの業務をRPA化するために、全体の流れをフローチャートとして可視化してみた結果、実は無駄だった工程が洗い出された、という効果も上がっているようですね」
坂西氏は将来的に業務の自動化を全庁的に広めたいと、2021年、RPAでできることや他の自治体での利用事例などを紹介する研修を実施、所属も年代もまちまちの約80名が集まったとのことで、庁内におけるRPAやAIへの関心は、確実に高まりつつあると言えそうです。
自動化の推進にあたっては、今後もアクシオのようなパートナー企業の力を借りながら、デジタル戦略課でシナリオの管理・統制を行っていく予定だと、坂西氏は言います。
「職員がシナリオ開発するとなれば労力が割かれますし、各課任せにするとガバナンスが緩んだり、異動によって対応できる人材がいなくなったりすることもありますから、当課でとりまとめていこうと考えています。
全庁展開にあたっては、RPAを利用しやすい環境を整備することが重要だと考えています。行政手続きのオンライン化のために利用している電子申込みシステムとの連動なども検討したいと思っています。
RPAやAIの利用推進により、職員の負担が軽くなれば、より手厚い住民サービスが実現するはずです」
お客様プロフィール
- 地方公共団体名
- 豊中市役所
- 市役所所在地
- 大阪府豊中市中桜塚3丁目1番1号
- 人口
- 401,192人 (2021年7月現在)
- ウェブサイト
- https://www.city.toyonaka.osaka.jp/
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